東京・銀座。阪急メンズ館で開催されている落合陽一氏の新作個展「ヌル即是色色即是ヌル」に訪問してきました。
今日のライカ装備は、Apo-Summicron M50mm F2.0に、Leica M10-R。
私が持つレンズボディのなかで最高峰の性能を持つボディとレンズです。
ヌル即是色色即是ヌル

展示コンセプトは、こちら。
作家は宙に浮かぶ銀彫刻をデジタルに変換し、フィジカルに撮影し、またデジタルに変換するプロセスの中に現代のマニ車のオマージュとデジタルの輪廻転生の形を探してきました。この度新作として、「ヌル即是色色即是ヌル」を展示します。この作品は空即是色・色即是空という般若心経の空のモチーフを有形を留めない銀彫刻のデジタルデータとして捉え直し、それがさまざまな色や形を反射しながら風景を歪める様をデジタルの掛け軸の中に構成します。
引用元:プレスリリース
凡人の知識にて理解の域をは超えておりました。
ですので、なんとか解釈を試みようと丁寧に読解していき、その結果辿り着いた解釈を述べてみたいと思います。
丁寧にコンセプトを解釈
まず、撮影方法。
「宙に浮かぶ銀彫刻をデジタルに変換し、フィジカルに撮影し、またデジタルに変換する」とありますが、「彫刻」と「デジタル変換」というキーワードを読み解くに、そんなに大きなものではない物体(彫刻)を、それをカメラを使って撮影したのではないかと想像されます。
銀の鏡面の彫刻 を空中に浮かべ(吊るし)、それが周囲の景色を反射しながら、回転している状況。これを「フィジカルに撮影した」ということなので、何らかの方法や手段を用いてデジタルデータに変換したということですね。一眼カメラなのか、多眼レンズなのか。赤外線カメラなのか。撮影装置なのかは不明でした。
さらに、それをデジタルデータに変換するなかで、マニ車と輪廻転生の形を模索したようです。


↑マニ車と輪廻転生。
確かに、展示されていた作品のモチーフのように見えてきます。
般若心経の「空即是色」と「色即是空」
次に、展示会名にもなっている「空即是色」と「色即是空」というコトバ。
これは般若心経に登場する仏教用語です。
- くうそくぜしき【空即是色】 物の本性は空(くう)だが、それがそのままこの世の一切のものであるということ。
- しきそくぜくう【色即是空】 この世の万物は形をもつが、その形は仮のもので、本質は空(くう)であり、不変のものではないという意。
コトバンクで調べてみましたが、いまいち未だ分からないので、さらに意味を深掘りしてみます。
仏教用語。『般若心経(はんにゃしんぎょう)』のなかのことばとして有名。物質的なもの(色(しき))はそのまま実体性をもたず(空(くう))、また実体性をもたないままでしかも物質的なものとして存在するという意味で、これに続いて感受作用(受)、表象(想)、認識などを形成する力(行)、認識器官(識)についても同様のことが述べられる。人間を取り巻く世界と人間、考えられうるすべての存在者は、人間が想定しがちな不変で固定的な固有の性質をもって存在するのではない、換言すると空であり、しかも空でありながらいろいろの原因条件によって現象しつつある、という般若経典の基本である空の思想を表現したもの。前半は、あらゆるものを空とみることによって人間の煩悩(ぼんのう)や妄想(もうそう)を取り除くことをねらい、否定的であり、後半は、執着のない目でみたとき、あらゆるものがそれぞれの働きをもって生き生きと現象し存在していることを肯定的に表している。
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について
「この世の目に見えるものや形づくられたものは、実体として存在せず、縁起によって現象するのだ、という仏教の基本原理に即した教えです。
この前提をしっかりとインプットしたうえで、今回の展示作品を眺めて見ると、実にさまざまなことを感じることができます。
展示作品の解説
空中に浮遊する鏡面の彫刻が風景を切り取り、回転し人間の魂と風景の調和と変容を私たちに思い起こさせる作品をフィジカルに撮影した「Re-Digitalization of Waves」、その「Re-Digitalization of Waves」シリーズのデジタルと物質の間を繰り返し転移し続ける作品の過程で、あえてフレームレートゼロにし、質量性の高い 2.5 次元印刷に着地した「Re-Materialization of Waves」。そして新作となる「ヌル即是色色即是ヌル」は、般若心経の空のモチーフを銀彫刻のデジタルデータとして捉え直した作品です。
引用元:プレスリリース

作品は、不変の実体として存在しない「空」を表したものであるが、ある関係性のなかで現象化して見えるいうことを、見事に体現された作品であると感じます。


本来、我々が見ることができない。またはそこに存在しているのかも感じることができない「デジタルデータ」を、目に見えるような形にしている点が非常に面白いです。
そしてそれを般若心経の根底にある空即是色・色即是空という教えになぞらえ、マニ車や輪廻転生のモチーフに乗せ、不変的なイメージとして体現しているということです。
それを、敢えてフレームゼロ(=一時停止)でそれをプリントした作品

不変ではないはずの「空」をあえて、静止画にしている点が非常に面白いです。
考察まとめ
非常に興味深い展示会でした。
今回の作品たちが「空」を表現したものであり、縁起のなかで現象化するということは、つまり受け手の解釈もさまざまあってよいということで。
絶え間なく変化を続ける実体のない作品をあえて、ライカという時間を永遠に残す装置を使って、すべてをモノクロで撮影しました。
これを無料で見れるとは、とてもお得ですね。大阪でも開催されるようですのでお近くの方はぜひ。
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