ライカのオールドレンズ。このサイトを見に来てくださるような方々に今さら説明など不要だとは思うが、主にフィルム時代に作られたレンズで、昨今のミラーレスやライカ、フィルムブームに乗って近年価格高騰を続けるレンズたちだ。
古いものは1930年頃から、1980年代頃のものを指し、現代のレンズにはない特有の柔らかい描写や、色の滲みが受け、人気を博している。
そんな僕もいくつかオールドレンズを所有しているが、今回の記事では、その中でもお気に入りのライカの「初代ズミクロン沈胴式 5cm」をご紹介する。
既にライカを使っている人にはもちろん、これからライカ購入を検討している方にも、最初の1本のレンズとして候補に一度は挙がるのがこのズミクロンではないだろうか。

ライカ 初代ズミクロン。沈胴5cmF2.0とは?

「ズミクロン」といえば、開放F2のシリーズ群に冠されたライカの標準レンズの名称。今回ご紹介するこの「沈胴式ズミクロン」が、現代まで続くズミクロン史の初代、ファースト・ズミクロンなのである。発売は1954年で、今から65年以上も昔のレンズだ。
1954年という年に触れておくと、かのM型ライカ「M3」が発売された年としても有名。それまで全盛だったバルナックライカから、Mマウントを搭載したレンズファインダーに、大きく時代が動いたタイミングといえる。


そんな歴史的な年に発売されたのが初代ズミクロン沈胴式だ。当時のライカ社としては、当然Leica M3との組み合わせを意識していたと推察するものの、この初代ズミクロン沈胴式は、バルナックライカ用のLマウントで発売された。
いちおう補足しておくと、Leica M3をはじめとするM型ライカはMマウント。初代ズミクロンはLマウント。組み合わせるには、L→Mマウントと呼ばれる変換マウントアダプターが必要だ。こちらのアイテムも昨今高騰を続けており、以前は中古3,000円程度で変えたものが、2020年現在では1万円前後〜という値頃感である。大きく35mm用と50mm用の2タイプあるので、購入される際にはレンズの焦点距離によって注意が必要。

沈胴式か、固定鏡胴か。
さて、このズミクロンは「沈胴式タイプ」と「固定鏡胴タイプ」で2種類発売されており、中身のレンズ構成はほぼ一緒と言われているが、個人的に好きなのは、沈胴式である。
何故かというと、沈胴させることによってコンパクトになることと、沈胴させるタイプのズミクロンは初期型のみ。長く続くズミクロンのなかで唯一無二の機能というところにロマンを感じるからだ。
また、固定鏡胴よりも、沈胴式のほうがより柔らかく写る、という噂もある。ただ、前述のとおりレンズの構成は同じなので、レンズの状態による違いという見方も出来なくはない。僕は固定鏡胴は使ったことがないので、各自のご判断におまかせしたい。


空気レンズと言われた描写性能
初代ズミクロンは、「空気まで写る」と言われたことが有名で、当時のレンズ描写性能テストで数値が高すぎて測定不能という結果を叩き出すなど、いろいろな逸話を持つのがこの初代ズミクロンだ。
実際に空気まで写るかは、別として、その立体感はその場の空気感を鮮明に、そして、はっきりと記憶してくれる。
また、絞りによって色々な表情を見せるのが初代ズミクロンの魅力。開放時F2.0の描写はまさにオールドレンズというべき、柔らかいフワフワとした表現を持っている。


1954年は未だモノクロフィルムが全盛期の時代である。カラー写真が一般に用いられるようになったのは1970年頃なので、レンズの設計もモノクロ用として作られている。カラーで撮ったときにはオールドレンズ特有の色の滲みが発生し、まるで夢の中にいるような、この柔らかい描写につながっている。

その一方で、F5.6以上に絞ったときの描写は、現代レンズにも迫るような解像感を叩き出す。開放F値と、絞ったときのまったく別のレンズを使っているような感覚に陥る。
まさに一挙両得。この表情の違いがライカのオールドレンズ独特な魅力なんだと思う。

さらに、デザイン性の高さが魅力

オールドレンズ特有の描写もさることながら、初代ズミクロンを気に入っているもう一つの理由は、デザイン性の高さである。
特に、このM3と組み合わせた際のカッコよさは、すべてのM型ライカとレンズの組み合わせのなかでトップ・オブ・トップ。圧倒的No.1だと思う。
M3は沈胴ズミクロンのためにあり、沈胴ズミクロンはM3のためにあると、そう確信している。

かの有名な写真家 アンリ・カルティエ・ブレッソンもこの組み合わせで写真を撮ってたんだとか。このセットで街を歩けば、気分はブレッソン。もちろんフィルムはモノクロ感度はISO100、シャッタスピードは1/125、F値は8。距離計は5mに固定だ。これで街に繰り出せば、スナップシューティングの名手になった気分を味わえる。
使わないときは、沈胴させて、かばんにポン。携帯性も兼ね備えたレンズの秀逸さに、脱帽である。
購入に至った経緯と初代ズミクロンの買い方
僕がこのレンズを買ったのは3年前の2017年。
絞りリングこそトルクが重いものの、レンズは曇りやバルサム切れなど一切なく、非常にきれいな状態のものを手に入れることができた。おそらくトルクの重さは、オーバーホールですぐに解消されると思う。
たまたま立ち寄ったカメラ屋で、当時としても破格の安値で並べられており、その場で即決した。オールドレンズとの出会いはまさに一瞬の偶然。たとえその時欲しくなかったとしても、思い切って即決する潔さと、ちょっとした勇気、そして、一定程度の軍資金が必要だ。
ちなみに、この沈胴ズミクロンは既に、当時即決した価格の3倍程度にまで高騰している。
出会ったときが最良の買うタイミング。
市場から消えてなくなって後悔する前に、おひとついかがだろうか。


コメント